アイルランド音楽で使われるABC譜について
[伝統音楽で使われるアルファベット表記の譜面の読み方の解説]

 アイルランド音楽は基本的に楽譜を用いずに耳で聞いて学んでいくのが一般的ですが、視覚的に曲を追ったり、覚えたりするために補助的に楽譜を用いることがあります。

 

 楽譜は普通の五線譜が使われることもありますが、アイルランドでは「ABC譜(ABC notation)」と呼ばれるアルファベットだけで書かれた楽譜もよく使われています。

 

 下は「ABC譜」の一例です。

アイリッシュ音楽 楽譜

フィドルのワークショップでABCで譜面を書いているところ

 

ケルト音楽 楽譜

アイルランドのワークショップで配られた"楽譜"

全部アルファベット書かれています。

 

アイルランド音楽 楽譜
アイルランドで販売されているABCで書かれた曲集
アイルランド音楽 楽譜
左の曲集に収められている曲の一曲です

 

 上のような「楽譜」を日本人の人に見せると「これってコードですか?」とか、「アイルランド音楽ってコードで弾くんですね?」と聞いてくる人が居るのですが、アルファベットの一文字、一文字は"コード"を表しているのではなく、"単音"を表しています。

 

 「ABC譜」とは要は「仮名書き」した譜面に相当します。日本では「」は「」、「」は「」と覚えていきますが、アイルランドでは「」は「C」、「」は「D」と覚えていきます。

 

アイリッシュ 音階
仮名を振った「ドレミファソラシド」の音階
ケルト音楽 音階
上と同じことをアルファベットで書くとこのようになります

 音楽を習い始めのうちは、上のように譜面に仮名を振ることがあると思いますが、「ABC譜」は五線譜に仮名を振るのではなく仮名だけで書いた楽譜といえます。

 

 中には五線譜にカナを振る感覚で、五線譜に「ABC」を振って書く場合もあります。

 

アイリッシュ音楽 ABC譜

五線譜に「ABC」で仮名降りした楽譜

 

 ABC譜は楽譜を「仮名」だけで書くということになるのですが、仮名だけだと音の高さの違いや、音の長さの違いを表せないので、アイルランド音楽で用いられている「ABC譜」では音の高さの違いや、音の長さの違いを表せるように工夫されています。

 

 アイルランド中で決まった書き方があるわけではないのですが、音の高さを表す場合は「,」と「’」を用いて表すことが多いです。

 

 どの音を基準とするかは人によって違っていたりするのですが、

 

 

 私が教わったのは:

 

・ティンホイッスルの最低音である「D(レ)」の音を基準として、ティンホイッスルの最低音より低い音域の音には文字右横に「,」を付ける。

 

・ティンホイッスルの最低音の「D(レ)」の音の1オクターブ上の「D(レ)」よりも高い音には文字右横に「’」を付ける。

 

 という書き方でした。

 

 人によってはティンホイッスルの高い「D(レ)」の音を基準音としてそれより低い音には「,」を付けて、それより高い音には「」を付けるというような書き方をする場合もあるようです。

 

 ちなみにコンピュータ上で用いられる「ABC記譜法」ではティンホイッスルの高い「D(レ)」より上の音は小文字で表すようです。

 

アイリッシュ音楽 楽譜 ABC譜

コンピューター上で用いられている「ABC記譜法」によって書かれた楽譜

 

 

 「ABC記譜法」も最近はよく用いられるようになっているのですが、紙に書くときの「ABC譜」とは若干の違いがあります。

 


アイリッシュ音楽 ABC譜
ABC譜における音の高さの表し方(クリックで拡大できます)

 音の長さの表し方も色々とあるのですが、私が最初に習った先生は四分音符や付点四分音符などの長く伸ばす音は「円」で囲んで表していました。人によってアルファベットの下にアンダーラインを引いて長音を表すこともあります。

 

アイリッシュ音楽 譜面
音の長さの表し方の例(クリックで拡大できます)

以下はABCで書いた譜面の例です。

アイルランド音楽 楽譜

エニスのカスティーズで売られているオリジナルの「曲集」

全てABCで書いてあります。

 

アイルランド音楽 ABC譜

 

 上の曲はクレアのエニスにあるレコード屋兼楽器屋さん「カスティーズ」で出しているオリジナルの曲集に収められている「キラキラ星」です。カスティーズオリジナル曲集には、楽器を始めたばかりの初心者向けの簡単な曲も入っています。

 

上のABC譜と同じことをカナで書くと下のようになります。

キラキラ星(仮名)

 同じことを五線譜で書くと以下のようになります。

キラキラ星(五線譜)

 次の曲も上と同じくカスティーズのオリジナル曲集に収められている曲で、「マイク・ラファティーズ」というジグになります。

アイリッシュ ジグ 楽譜
ABCバージョン
ケルト音楽 楽譜
仮名バージョン

 上と同じことを五線譜で書くと以下のようになります。

アイリッシュ ジグ 楽譜
クリックで拡大できます

 

 アイルランド音楽を学ぶのに大切なのは、譜面に頼らず耳だけで聞いて色々な細かなニュアンスをつかめることなのですが、視覚的に曲を記憶に留めるときなどにこのようなABC譜の読み方や書き方が分かっていると便利です。

 

 アイルランドに行って現地でレッスンを受けたり、サマースクールに参加した時など、渡される楽譜がこのようなABC譜であることも多いので、ABC譜の知識も知っておいて損はないと思います。