Fleadh(フラー)に参加
世間がオリンピックで盛り上がっている頃、同時期に開催されたアイルランド(アイリッシュ/ケルト)音楽のオリンピックとも言える、アイリッシュ伝統音楽最高峰のコンクール(&音楽フェスティバル)「Fleadh Cheoil na hÉireann (フラー・ヒョール・ナ・ヘーレン)」に出場するために、アイルランドに行ってきました。
今年2回目のアイルランド訪問です。
前回はアイリッシュ音楽の認定講師の免状の授与式に参加するために訪れました。
認定講師の免状の授与式はこちらのページをご覧ください。
前年に受験したアイリッシュ音楽の認定講師資格試験はこちらのページをご覧ください。
「フラー (Fleadh)」とは正式名称を「フラー・ヒョール・ナ・へーレン (Fleadh Cheoil na hÉireann*)」といってアイルランド音楽の国際協会「Comhaltas Ceoltóirí Éireann(コールタス・キョールトリ・エーレン)」が主催するアイルランド(アイリッシュ/ケルト)音楽の国際フェスティバルです。
*Fleadh=フェスティバル、 Cheoil=音楽、 na=~の(英語のof)、hÉireann=アイルランド語でアイルランドという意味になります。 繋げると「アイルランドの音楽のフェスティバル」になります。
毎年8月の第3週に開催されていて、開催場所は数年ごとに変わります。今年(2016年)と来年(2017年)はアイルランド西部のクレア州の州都である「エニス(Ennis)」という町で開催されます。
開催期間は1週間で、期間中アイルランド音楽のサマースクールやコンサート、セッションなど色々なイベントが催されます。
フラーはアイルランド音楽の世界におけるオリンピックともいえるイベントで、世界中から多くのアイルランド音楽の愛好家が集まります。 有名な演奏家も多く訪れるので、期間中普段はCDを通してしか知らないような超有名な演奏家を生で見ることが出来てしまいます。
フラーの最大の見どころは週末に行われる楽器別のコンペティション(コンクール)で、このフラーのコンペティションで優勝すると「オール・アイルランド勝者 (All-Ireland Champion)」の称号が与えられます。
コンペティションはアイルランド音楽で使われるおおよそ全ての楽器を楽器別、年齢別、部門別に分けて演奏技術を競います。
こちらのページで紹介している楽器は全てコンペティションの種目に入っています。
楽器のソロだけでなく、デュエット(2人編成)やトリオ(3人編成)、バンドの部門などもあります。
コンペティションに「正式」に出場するためには予選を経なければならず、アイルランド国内で「オール・アイルランド」に出場するためには、県予選*で、地区予選*でそれぞれ2位までに入らないとオール・アイルランドへの出場権を得られません。
*アイルランドには南北合わせて32の県があります。県のことは「カウンティ(county)」と呼びます。県予選は北アイルランドに属する県でも行われています。アイルランドには日本の関東地方、近畿地方に相当する地区が4つあり、地区のことをプロヴィンス(province)と呼びます。
アイルランドでは県予選のことを「カウンティ・フラー(County Fleadh)」、地区予選のことは「プロヴィンシャル・フラー(provincial fleadh)」と呼んでいます。
フラーはアイルランド音楽の国際協会「Comhaltas Ceoltóirí Éireann (略してCCÉ)」が主催したいるので、CCÉの支部があるアメリカやイギリスでも予選大会が行われていて、それぞれの国の予選を勝ち抜いた奏者がオールアイルランドにやってきます。
日本では6月にフラーの予選大会が開催されています。日本予選において2位以内に入りかつ85点以上*の得点を出した奏者がオールアイルランドに本戦に出場できることになっています。
*フィギアスケートだとか体操とか同じような感じで、演奏の出来栄えを得点化して勝敗を競い合います。90点は水泳とか陸上の参加標準記録に似たような感じで、オールアイルランドに出場するために最低限必要となる得点です。)
フラーを前にアイルランド大使館で日本代表としてアイルランドへ渡る出場者の壮行会が行われました。
壮行会の会場のアイルランド大使館
壮行会は「send-off party」と言うのだそうです。
壮行会では代表に選ばれたミュージシャン達、バンドの挨拶&演奏がありました。上は「ケーリーバンド」というバンドの部門に出場する「タロー・ケーリー・バンド」の面々。永田太郎さんを中心に松本近辺のミュージシャン達で構成されるケーリーバンドです。非常に実力の高いバンドです。
こちらは同じく代表してフラーに出場する「トヨタ・ケーリー・バンド」。フルート/ホイッスルの豊田耕三さんを筆頭に芸大のOBたちを中心に結成されたバンドで、こちらも本番で入賞してもおかしくないだけの実力を持った日本を代表するケーリーバンドです。
壮行会の最後に日本チーム(?)のサポーターを交え皆で記念撮影
出国当日の新聞にフラーについての記事が掲載されていました。
今年はオリンピックイヤーなので、それにかけてアイルランド音楽の「五輪」で金メダルを目指す日本の奏者のことが取り上げられています。
私のことも取り上げられています。
頼んだわけではないのですが、借りた車はディーゼル仕様車でした。
ディーゼル車を運転するのはこれが初めてです。
フラーを控えフィークルも賑わっているのかと思いきや、相変わらずのどかな所でした。
フィークルの田舎道を走るトヨタ・カローラ。
挨拶を兼ねてフィークルに住む日本人の友人宅をお邪魔しました。(奥にちらっと見える家が友人宅) フィークル界隈には日本人が何人か住んでいます。
アイルランドに着いた翌日からフラー期間中に開催される「Scoil Éigse」というサマースクールを受講しました。
Scoil Éigseはフェスティバル前半の月曜日から木曜日まで開催されるアイリッシュ音楽とダンスのサマースクールで、期間中アイルランドのトップクラスの演奏家の指導を受けることができます。
フルートクラスの講師のブリード・オドノヒュー(Bríd O'Donoghue)。この夏(2016年)に日本ツアーに来たコンサーティーナのリアム・オブライエン(Liam O'Brien)のお母さんです。苗字が違うのは、お母さんのブリードが旧姓を名乗っているからです。アイルランドではよくある話です。子供は普通父親の姓を使います。
私の受講したクラスの中では最年少の8歳の女の子。
もう1人の講師の「Mícheál Ó hAlmhain (ミホール・オハルーンみたいな感じ?)」。1968年と1969年のオールアイルランド・フラー(フルート部門)で優勝したダブリン出身の奏者で、現在はアラン諸島のイニシア島に住んでいとのことです。
上はMícheál Ó hAlmhainが著した、ティンホイッスルの教則本です。ティンホイッスルの教則本としてはけっこう有名だったと思います。表紙を飾るのは若かりし頃のMícheál Ó hAlmhain??
講座が終わって午後にエニスの中心部に繰り出すと、平日にも関わらずこの人出!週末はもっと混むことでしょう。
エニスの中心部にあるオコンネルスクエアとオコンネル像
路上ではそこら中で子供たちがバスキングをやっていました。
路上でアイリッシュハープを弾いている子
コンサーティーナを弾く女の子たち。
色々な楽器を持っています。姉弟なのかな?
こんな具合で町中の至る所で音楽が溢れていました。
フラー期間中、色々な楽器の期間限定ショップが出店していました。こちらはアコーディオンの専門店です。
こちらは「エメラルド・バンジョー」というバンジョー・メーカーの特設店舗。アイリッシュ奏者の間で評判の高い「Paragon」を意識した造りが特徴です。
エメラルド・バンジョーの「Paragon」
こちらはエニスの楽器店兼CDショップ「カスティーズ (Custy's)」
フェスティバル期間中は大盛況のようです。
飲食店の屋台もたくさんありました。
アイルランド中に出店しているアイルランドのファーストフード店「スーパーマック」の移動販売車。普段なら6ユーロで買えるセットが9ユーロもしていました・・
フラーのサマースクール「Scoil Éigse」の参加者たちによる大セッションもありました。こちらはアイリッシュハープの受講者たち。
こちらはバンジョーの受講者たち
フルートの受講者たち
同じフルートクラスの子たち
サマースクール参加者全員で記念撮影。(ドローンからの空撮)
この後突然雨が降ってきて大変なことに・・・
夜は色々なパブでセッションがありました。私はフルートクラスの講師のブリード・オドノヒューがホストを務めるセッションに行ってみました。
地元の新聞もフラー特集を組んで、熱気に包まれるエニスの町の様子を伝えています。
フラーの期間中に放映されている「Fleadh TV」という番組に出演しました。一緒に弾いているのはアラスカとコロンビアからの参加者です。外国人、特に日本人は珍しいので、よくテレビに出させられます。
フェス中はあちこちでテレビやラジオの収録をやっていました。
クレアのローカルFM局「Clare FM」の前では、メンバー全員が女性の「チェリッシュ・ザ・レディース」の公開生放送(生ライブ)をやっていました。
フラーのメインイベントといえば楽器別、部門別の楽器コンクール(コンペティション)です。
私は6月の日本予選で出場権を得た4部門全てに出場しました。
全て同じ日に行われたので、4つの楽器を持って移動するのが大変でした。。
上の画像はコンペティションのタイムテーブルです。
どこで、何時から、どの種目が行われるかが書いてあります。
大抵フラーのコンクールは学校(地元の小中高のいずれかの校舎)でやることが多く、教室がコンクール会場となります。ごく一部の種目は町のホールなど立派な施設を使ってやりますが、大概の種目は学校の教室を使ってこじんまりとやっています。
私はこの表の中の一番左のマンドリンとバンジョーの部にエントリーしました。2種目ともに「St. Flanna's College」の「11A」という会場で行われます。
マンドリンとバンジョーの部の会場は学校の講堂でした。
マンドリンの部の優勝トロフィーです。アイリッシュ・マンドリンの世界一になるとこれが貰えるようです。
コンペティションに出場する演奏者のリストです。7番目に私が居ますが、番号と演奏順は一切関係ありません。大概の場合でコンペティションが始まった段階で、会場に居る人から順に弾いていくのです。演奏前にウォーミングアップをしておきたいとか、出番を遅らせたい時は会場の中に入らなければいいのです。この辺りの適当さがアイリッシュ気質の特徴の一つです。
私はこの「Rogha Ghléas部門」ではサックスで出場しました。「Rogha Ghléas部門」は所謂「その他諸々な楽器」の部門で、単体の種目がない楽器は全てこの部門に出ることになります。
リストにはブズーキやテナーギター、ライアー、クラリネットなどの楽器が載っています。
サックスとブズーキで演奏技術を競って何になるんだろうか?という変わった種目なのです。
こちらはフィドルのコンペティション会場。フィドルはアイリッシュ音楽の中の花形楽器なので、ちゃんとしたホールで行われるのです。
フィドル部門に出場する演奏者のリスト。私(11番目)の下の「Rebecca McCarthy-Kent」はアイリッシュ音楽の公認講師資格「TTCT」の教育実習合宿で一緒に勉強した子です。免状の授与式にも一緒に参加しました。Rebeccaの一つ下のCiliann Gonzalezと私の2つ上(9番)のSky KelseyはFleadh TVに一緒に出演した奏者です。Ciliannは南米のコロンビア、Skyはアラスカの出身です。
ちなみに名前の横にずらっと「CCÉ」と書いてありますが、これは各演奏者の所属先を表しています。スポーツでいうと例えば陸上競技の「陸上競技連盟〇〇支部」みたいなものでしょうか。「CCÉ」は陸上の「国際陸上競技連盟」に相当するアイリッシュ音楽の国際協会で、アイルランドの大概の奏者はこの「CCÉ」に所属しています。
そもそもこのコンペティション自体「CCÉ」によって主催されています。
コンペ結果の速報板。各種目の結果が出るとここに順位が張り出されていきます。インターハイとか国体のスポーツの結果速報と似ています。
マンドリンの部の結果表。マンドリンはティペラリーの「Richard Delahunty」が優勝。彼は「その他諸々部門」でも優勝して見事に2冠達成。バンジョーの部にも参加していましたが、バンジョーでは優勝は逃してしまったようです。
私は残念ながらどの部門でも入賞出来ませんでした・・
そもそも、私の演奏レベルは入賞だとか何位だとかそういうことを言えるレベルではありませんので・・・
どの楽器も上位に入賞する人たちの演奏はとてつもなくレベルが高いです。
どういう演奏がレベルの高い演奏かということこを、文章で説明するのは難しいのですが、とにかく私の今のレベルではとても太刀打ちできないことは確かです。
県予選、地区予選を2つの予選を経て出場してくるアイルランドの奏者たちの大半は子供の頃からこの音楽を続けている奏者たちです。
私の場合はアイルランド音楽もそうですが、楽器自体の演奏を始めてから日も浅くまだまだ発展途上です。(年齢だけは発展してるのですが、音楽を始めたのが超遅かったので・・)
来年もまたフラーのコンクールに出るかどうかは分かりませんが、また出場することがあれば今回よりももっと高い技術を持って演奏できるよう精進していきたいと思います。
全てのコンペティションが終わって、エニスの町中のセッションに行こうかなと思っていたら、フルートの講師のブリード・オドノヒューから一緒に「ミルタウン・マルベイ」のセッションで弾かないかと誘われました。
ミルタウン・マルベイは毎年7月に世界最大のアイリッシュ音楽のサマースクール「ウィリー・クランシー・サマースクール」が開催される町で、アイリッシュ音楽の聖地とも言える場所です。
そんなところでティンホイッスル&フルートの名手として名高いブリード・オドノヒューと一緒に弾けるなんて願ってもないことと思い、彼女のセッションに行ってみることにしました。
アイリッシュ音楽の聖地「ミルタウン・マルベイ」のメインストリート。面の前の像はこの町出身の名パイパー「ウィリー・クランシー」
セッションがある「Friels Pub」。「LYNCH」と看板を掲げていますが、地元では「Friels Pub」として知られています。
なんと演奏者はブリードと私のみ。普通のオープンセッションだと思っていたら、演奏者固定のギグ形式のセッションだったのです。
普段一緒に弾く機会のない人なので、ブリードの出す曲にひたすらくっついていくだけだったのですが・・・
セッション(ギグ)が終わってさあ帰ろうという時に、ブリードから「今日はどうもありがとうね」と握手を求めてきたので、握手をするとなにやらくしゃくしゃの紙を握らされました。手を開くとくしゃくしゃになった50ユーロ札が2枚ありました。
ギグのギャラというやつですね。なぜかアイルランドではこの手の「ギグマネー」のやりとりってこんな感じなんですよね。どうどうとお金のやりとりをしているところって見たことがないです。
フラー期間中ずっとフィークル(以前住んでいた村)に滞在していたのに、一度も会うことのなかった元お隣さんのヴィンセント・グリフィンと帰国前日にエニスの町中でばったり再会。
ごくごく自然にセッションが始まりました。
最初は二人で始めたセッションが一人増え、また一人増えと、徐々にビッグセッションに・・
この写真にはミスター・ストリートセッションの異名を取る「アントン・マガワン」とフルートの「Marcas Ó Murchú」が加わっています。
ちなみにヴィンセントとアントンはフラーのフィドル・コンペティションで優勝経験がある奏者です。アントンは1971年と1972年にヴィンセントは1974年にオール・アイルランドで優勝しています。
ストリートセッションで弾くヴィンセント (動画編)
たったの二人で始まったセッションがしまいにはこの規模に・・
フルートのルイーズ・モルカヒー(Louise Mulcahy)まで参加しているし、フルートクラスの講師のMícheál Ó hAlmhainも参加しています。
ヴィンセントたちとの集合写真。
ヴィンセントだけそっぽ向いてますが・・・
さて次回はいつ会えるのか?
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