お隣の名フィドル奏者 - ヴィンセント・グリフィン

私のフィークルでの住まい「アイルロッジ」のお隣には、アイルランドを代表する素晴らしいフィドル奏者が住んでいます。

 

彼の名前はヴィンセント・グリフィン。

 

御年80*になろうかという日本で言えば人間国宝に相当するような、大御所中の大御所のフィドル奏者です。*2010年当時. 1932年生まれなので2018年で86歳.

Vincent Griffin fiddle
自宅でフィドルを弾くヴィンセント・グリフィン

ヴィンセントは私の家から一番近いご近所さんで、その距離は約100メートル、大家さんの家よりも近いのです。

アイルランド地図
アイル周辺地図(クリックで拡大できます)

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Contens

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そもそもアイルランドに来た時点では存在すら知らなかった・・

自分の住んでいる家の隣に凄いフィドル奏者が住んでいるということは、引っ越してきた当初から知っていましたが、今とはなっては超無礼なんですが、最初は音楽にはあまり興味がなくて(もともと音楽のためにアイルランドに来たわけではなかったので・・・)、引っ越してきてからしばらくはただのお隣のお爺さんとしか思っていませんでした・・・

 

私がだんだん音楽にのめり込むようになってきた頃、たまたま彼が私の家の前を通った時に家の中から聞こえてきたフィドルの演奏が気になったそうで、家を訪ねてくれたのでした。

それ以来お互いの家を行ったり来たりするようになりました。

私の住むアイルロッジでフィドルを弾く巨匠ヴィンセント・グリフィン。

弾いている楽器は私のフィドルです。

ちゃんとした指導を受けたことはないのですが・・

実際のところヴィンセントから直接フィドルの指導を受けたことはありません。指導を受けるとはつまり「ここはこうしないさい、ああしなさい」といったような指導は受けたことがないということです。基本的にはただ一緒に弾いていただけので、正直なところどの位ヴィンセントの影響を受けているのか自分でもよく分かっていません。

そうはいってもお隣さんとして過ごした日々は私のおいては何物にも代えられないとても貴重な体験になったと思います。

特に彼の「音楽」に対する姿勢には感銘を受けました。私も音楽に対して同じように接することが出来たらなと思っています。

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葉加瀬太郎氏がフィークルを訪問 - ヴィンセントからフィドルを習う

私がフィークルに住んでいた時に、日本のテレビ局が番組の撮影でヴィンセントの家を訪れたことがありました。

 

バイオリンの葉加瀬太郎さんがアイリッシュフィドルに挑戦する内容の番組で、ヴィンセント以外にもマーティン・ヘイズやマーク・ドネランなどフィークルゆかりの演奏家のもとを訪ねていました。

 

こちらのページで葉加瀬太郎さんのフィークル訪問についてもっと詳しく書いていますので、よかったらご覧になってください。

葉加瀬太郎氏がフィドルに挑戦するドキュメンタリーより抜粋した動画です

葉加瀬太郎氏がフィークルでフィドルの修行をする番組からヴィンセントが出てくるシーンを抜粋した動画です。ヴィンセントに指導されている葉加瀬太郎氏の姿が微笑ましいです。

弓は下げたあとは上げるだけ

この動画でヴィンセントの言っていることはけだし名言であると思います。

たとえば、葉加瀬氏が「トリプレット」というフィドル独特のテクニックの使い方を聞いた時のヴィンセントの答えが、、

葉加瀬太郎 フィドル
ヴィンセントに質問する葉加瀬太郎氏
葉加瀬太郎 アイルランド

って、他にどうやって弾けっていうんじゃい!っていうほど当たり前すぎるほど当たり前なとても分かりやすい答えです(笑)。

そうトリプレットの弾き方は「まず弓を下げたあとに上げる」だけで弾けるんです。多分ほとんどのフィドル奏者はそうやって弾いているはずです。

葉加瀬氏のようにクラシックをやっていた人はどうだか知りませんが・・

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音楽は人の若さを保ってくれます。

葉加瀬太郎 アイルランド

これは本当名言だなとしみじみ思ってしまいます。

葉加瀬太郎 アイルランド

これもいいですね。本当の話でアイルランドの田舎では今でも音楽が生活が一部なのです。

楽器が弾けると孤独を感じることがありません

葉加瀬太郎 アイルランド

ヴィンセントが若い頃はレコード(CD)やテレビが普及していない時代ですから、音楽を聴きたいと思ったら、その場で誰かに弾いてもらうか、自分で弾くかのどちらかの選択肢しかなかったのです。

基本的に田舎の演奏家の多くは、自分の演奏を誰かに聞かせるというよりかは、自分で自分を楽しませるために弾く方が圧倒的に多いそうです。

ゴールウェイ出身の伝説的なフィドル奏者にして作曲家のパディー・ファヒー(Paddy Fahey)も同じようなことを言っていました。

そして次の言葉は私の胸に深く突き刺さりました。

楽器が語り掛けてきてくれます

ヴィンセント・グリフィン

この言葉を聞くと、純粋に音楽に向き合うってこういうことなんだなと、しみじみと感じます。

 

楽器が話しかけてきてくれるって、すごく素晴らしいですよね。

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ヴィンセントの話を聞いて昔読んだジャン・クリストフという本を思い出した

 この番組を見てふと中学生だか高校生の頃に読んだ(というか読まされた・・)、「ジャン・クリストフ」という小説を思い出しました。「ジャン・クリストフ」はフランスのノーベル賞受賞作家ロマン・ロランによる長編小説で、ヴェートーベンをモデルにした作品と言われています。

 

 ジャン・クリストフの第一巻で主人公の叔父がヴィンセントが言っていることに近いことを言っているシーンが出てくるのです。

長いのですが、青空文庫からコピーしたのを貼っておきましたので、読んでみたい人はこのページの下の方を見てみてください。

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ヴィンセント・グリフィン宅訪問記

 フィークルに住んでいる間、ヴィンセントの家には何度行ったことか。

なんといっても一番近いお隣さんですから、お互い音楽をやるとなれば「弾き友(?)」になっても当然なわけです。

たいていは誘ってくるのはヴィンセントの方で、今夜ウチで弾かん?って電話が掛かってくるのです。

ヴィンセント・グリフィン

ヴィンセントのノートに書いてある私の電話番号。家の電話と携帯の両方が書いてあります。たいてい家の電話の方に掛けてきます。家の電話に繋がらない時は携帯に掛けてきます。(当たり前ですが・・) 家の電話に出ない時は大抵どこかに外出しているってことなんですけどね。。

アイルランド 家

ヴィンセントの家の音楽部屋。葉加瀬太郎氏が訪ねていたところです。実際の住まいはこの建物の向かいにあります。

アイルランド 農家

玄関の「Welcome」プレート。

アイルランド 家

ヴィンセントの音楽室。葉加瀬氏がレッスン(?)を受けていたところです。

自宅の音楽部屋でフィドルを弾くヴィンセント。

ヴィンセント・グリフィン

ヴィンセントは有名人(?)なので「Mr. Vincent Griffin Ireland (アイルランドのヴィンセント・グリフィンさん)」だけで郵便物が届くそうです。(ヴィンセントもグリフィンも特に珍しい名前ではないので、アイルランドに同姓同名はそこそこ居るはずなのですが・・)

葉加瀬太郎 アイルランド

ヴィンセントの家にあった葉加瀬太郎氏のCD。番組撮影の際に置いていったんでしょう。

ヴィンセント・グリフィン

ヴィンセントの家でセッションしていると、よくウィスキーを出してくれました。二人でウィスキーをちびりちびりと啜りながら夜更けまで弾き続けます。

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ヴィンセントの本業は農家さん

アイルランド 農家

ヴィンセントの本業は農家なので、家にはトラクターなど農作業用の機械や設備があります。

アイルランド 農家

ヴィンセントの家の年季入ったトラクター。(1973年製)

ヴィンセントは今も農家としても働いてるので、ヴィンセントの家でのハウスセッションしている最中もたまに音楽を中断して、ヴィンセントの牧場に牛のチェックに行くこともしばしばありました。

ヴィンセントと一緒に牛のチェックに出かける様子を撮ったくだらない動画です。

ヴィンセントの家から見た私の家

アイルランド 田舎

私の住むアイルロッジをヴィンセントの家から見るとこんな風に見えます。

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アイルランド、特に田舎ではどれだけ音楽が上手くても、音楽の演奏で生計を立てている人はほとんどいません。フィークル界隈にはヴィンセント以外にも有名な演奏家が沢山住んでいますが、ほとんどの演奏家は何某かの仕事を持っています。葉加瀬太郎が出演した番組にもそういうシーンが出てきます。

ちなみにこの動画で「交通専門の技師」が職業と言っている人が出ていますが、交通専門の技師とは航空管制官のことです。よく聞くと「air traffic engineer(エア・トラフィック・エンジニア)」と言っていると思います。

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ヴィンセント・グリフィン

こちらはヴィンセントの奥さんのルースさん。スコットランドのご出身です。犬は名前を忘れてしまいました・・

ヴィンセント・グリフィン

若いころのヴィンセントとヴィンセントの子供たち。ヴィンセントには子供が8人いるそうです。全員に音楽をやらせたそうですが、続けている人は誰もいないそうです。ちなみにこの写真はアイルランド音楽界で最も権威のある音楽コンクール「Fleadh Cheoil na hÉireann(フラー・キョール・ナ・へーラン)」のフィドル部門で優勝した時の写真です。

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ヴィンセントの遠縁、フィークルが誇る大作曲家ジョニー・パターソン

私とヴィンセントが住むフィークル村のアイルから約5km離れたフィークル村のメインストリートに「ジョニー・パターソン(Johnny Patterson)」という人の碑が立っています。

アイルランド ジョニー・パターソン

ジョニー・パターソンは19世紀に活躍したフィークル出身のシンガーソングライターです。

歌手だけでなくサーカスの道化師としても活躍したそうです。

活動の場はアイルランドだけにとどまらず、イギリスやアメリカでも人気を博したそうです。

アイルランド フィークル

ヴィンセントはジョニー・パターソンの遠縁にあたるそうで、フィークルのメインストリートにある碑もヴィンセントによって除幕されています。

アイルランド ジョニー・パターソン

キルバロンのジョニー・パターソンの生誕地にも彼の功績を称える記念碑が建てられています。

アイルランド ジョニー・パターソン

石碑に刻まれている楽譜はジョニー・パターソンによる「The Old Turf Fire」という曲の一部で、彼の代表曲のひとつとしてよく知られています。

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下の動画の歌もジョニー・パターソンによるブリジット・ドノヒューという歌です。

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ヴィンセント・グリフィンのCD

ヴィンセント・グリフィンの演奏は以下のCDで聞くことができます。

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45歳でデビュー!

Vincent Griffin - Traditional Fiddle Music from County Clare

アイリッシュフィドル CD

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ヴィンセント・グリフィン - トラディショナル・フィドル・ミュージック・フロム・カウンティ・クレア 

1977年にイギリスのトピックレコードよりリリースされたヴィンセントが45歳の時に出したデビューアルバムです。

 

45歳でデビューアルバムを出すのはアイルランド音楽界では早い方?*

*パディー・カニー(マーティン・ヘイズの叔父さん)は70を過ぎてからデビューアルバムを出しているので。。

 

録音されたのは1976年。その2年前の1974年にヴィンセントはオールアイルランドで優勝しているので、優勝を記念してアルバムを作る話があって2年かけてレパートリーをまとめて録音したって感じでしょうか。

 

全トラックGeraldine Carrigという人がピアノとハープで伴奏しています。

 

後からリリースされた他の2枚に比べれば一番若い時にリリースされたアルバムとあって、商業的にリリースされたアルバムの中では一番"活きのいい"演奏が聞けるのがこのアルバムです。

 

ヴィンセントのスタイルは、東クレアの伝統的なスタイルに加えて、マイケル・コールマンやジェームズ・モリソンなどの戦前のスライゴの演奏家からの影響と、ロンドン時代に交流のあった演奏家からの影響がミックスされています。

 

このアルバムでは最初のトラックであるパディー・ファヒーズ(Paddy Fahey's)のセットなどにおいて、東クレアや東ゴールウェイの演奏法の特徴を垣間見ることができます。

 

マイケル・コールマンのセットを"まんま"弾いているトラックもいくつかあって、その辺りにはスライゴの影響も見ることができます。

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ヴィンセントが68歳の時の録音

Vincent Griffin - Traditional Irish Fiddle Music

アイリッシュフィドル CD

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ヴィンセント・グリフィン

トラディショナル・アイリッシュ・フィドル・ミュージック

2000年にリリースされた、ヴィンセントの2枚目のアルバムです。

この時ヴィンセントは68歳。

68歳とは思えない豪快な演奏が聞けます。

 

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82歳でリリースしたヴィンセントの最新作!

Vincent Griffin and Friends - Traditional Irish Music from the Shady Groves of Ayle County Clare

アイリッシュフィドル CD

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ヴィンセント・グリフィン & フレンズ

トラディショナル・アイリッシュ・ミュージック・フロム・ザ・シェイディ・グローヴス・オブ・アイル・カウンティ・クレア

2014年にリリースされたヴィンセントの最新作。

なんと82歳の時の作品です。

ほとんど衰えを感じさせない演奏を聞かせてくれます。

上の方の葉加瀬太郎氏のドキュメンタリー番組の中で、

音楽は人の若さを保ってくれます。気持ちも頭もね。」と語っていますが、このアルバムを聞くことでそれを実感できると思います。

ちなみに数トラックは1977年にリリースされたアルバムからの使い回し?っぽいです。

上の方で話題にした「ジャン・クリストフ」

上の方で話題にしたジャン・クリストフという小説の中にヴィンセントの名言に通ずるような、シーンが出てきます。その部分を抜粋してみたので、よかったら読んでみてください。(別のページで開きます)

ジャン・クリストフを読んでみる。